岡山の初期研修医ブログ

本業の医学知識・論文紹介(総合診療、リウマチ膠原病など)をメインとして、お酒の知識(日本酒、ワインのレビュー)、その他ゆるゆるな小ネタをはさみます。『サマリーになっていない要旨』 を目指して。ぜひお付き合いくださいませ。

飲酒後のショックバイタルの原因は?

先日の当直では内科的診断という点で興味深い症例が続きました。

デフォルトして経験をシェアさせて頂きます。

 

 

30歳代 女性

背景:統合失調症、アルコール使用障害で精神科病院へかかりつけ。SNRI睡眠薬、断酒薬などを処方されていた。

現病歴:搬送数時間前に大量に飲酒、気分不良で救急搬送。

来院時に血圧 60/40 mmHg、心拍数 120 bpm(洞性頻脈)、呼吸数 30回/分とショックインデックス(SI)が2.0の著明なショックを認めた。意識レベルは清明。しかしショックの割には全身が紅潮し、末梢は温かい。冷汗なし。

外傷、吐下血、心窩部痛などの随伴症状はなし。

CTでは胃内容物が十二指腸まで著明に貯留しており、肝臓は不整ではないが、食道静脈瘤破裂、出血性潰瘍も否定はできない所見。

 

 

敗血症を疑う身体所見や全身炎症反応の上昇なし。

アナフィラキシーショックを疑う病歴にも乏しい。

鑑別診断は・・・・?

 

 

 

 

アカンプロサートCa(断酒薬内服後の飲酒による

シアナマイド-エタノール反応

 

【解説】

まず、アルコールの代謝経路を整理します。

摂取したエタノールは、アルコール脱水素酵素(ADH)によりアセトアルデヒド代謝されます。アセトアルデヒド血中濃度が高まると、頭痛、気分不良、嘔気、全身紅潮などいわゆる「二日酔い」の状態になります。通常では、アルデヒド脱水素酵素(ALDH)により酢酸へ代謝されていきますが、本患者が飲酒前に服用していた断酒薬は、このアルデヒド脱水素酵素(ALDH)の働きを阻害するため、アセトアルデヒド代謝されず、血中に著明に現れます。これにより、重度の「二日酔い」状態、血圧低下、ショックを伴うことがあり、シアナマイド-エタノール反応として知られています。救急分野では、血圧低下による死亡例も報告されており、早期に本病態を認識し、大量補液・早期の血管収縮薬などの循環作動薬を用いることが救命につながります。

 

被疑薬としては、シアナマイド、ジスルフィラム(ノックビン🄬)のほか、本症例で服用していたアカンプロサートCa(レグテクト🄬)が知られています。特に、ジスルフィラムは血中半減期が60時間-120時間と長く、ショックが長期化することがあり、注意です。

 

この方は当初は出血性潰瘍などによるショックが疑われましたが、いわゆるwarm shockと服用歴からシアナマイド-エタノール反応が鑑別に上がりました。その他、セロトニン症候群や悪性症候群、高度脱水、アルコール心筋症、脚気心によるショックも鑑別が必要ですね。

 

血液ガス・採血所見でも低カリウム血症、代謝性アルカローシスを併発しており、アルコール中毒による偽性Bartter症候群の存在も疑われます。アルコールによる副反応は様々な病態があり、改めてアルコール使用障害患者の初療は難しいと感じました。。。

 

以上、メッセージとしては、

飲酒後の原因不明のショックでは断酒薬内服に注意!!です。

診断エラー(Delayed Diagnosis)について考える

レベル:☆~☆☆

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(1)診断エラーとは

 米国医学アカデミー(National Academy of Medicine; NAM)は2015年に、

Improving Diagnosis in Healthcareというレポートにおいて、医療安全というテーマ

に占める診断エラーの割合が大きいことから、その予防の重要性を発表し、そこから

診断エラー学が様々な学会、機関紙で取り上げられるようになったとの経緯があり

ます。

 日本では、徳田安春先生、綿貫 聡先生、和足 孝之先生らが当初より診断エラー学の

普及を進めてこられました。

 診断エラーの定義は、『患者の健康問題について正確適時な解釈がなされない

こと、もしくはその説明が患者に為されないこと』とあります。つまり、医療者側の

問題として、正しい診断・介入はその時点では本当に「正確」で「適時」であるかは

後から振り返ってみないと評価できないこと、医療者-患者双方の問題として、正しい

介入が適切に患者さんへ伝えられること、の2つの大きなハードルがあることが

わかります。

 

 前置きが長くなりましたが、診断エラーのポイントは以下の3つに集約されます。

① 診断の見逃しMissed Diagnosis)

② 診断の間違いWrong Diagnosis)

③ 診断の遅れDelayed Diagnosis)

クリアカットにどれかが当てはまるということはなく、複数のエラーが見られることが

大半です。

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(2)診断エラーの場面に際しておもうこと

 個人情報保護の観点から詳述は避けますが、先日診断エラーの場面に自らが直面

しました。指導医からフィードバックを各々得ましたが、自分のアクションの改善

を積み上げていれば、組織として防ぎえたエラーであったと思います。以下、どの

ように自分がふるまうべきであったか、を診断プロセス別に紹介します。

 

・情報収集

 患者本人だけでなく、家族からの病歴聴取を早く先行させて、患者本人と同様に重視

するべきだった。

 → 本人に認知症なく、重篤感もなかったことから本人のSource & Reliabilityを重視

  しすぎてしまった。あとから家族に訊いたら、実は発熱・悪寒戦慄も病歴に

  あった。。。

 

 患者さんの「いつものアレ」に引っ張られずに診断仮説を立てるべきだった。

 →同じ病気を繰り返している病気の「プロ」がいう「いつもと同じ痛み」であっても

  他の所見と照らし合わせて矛盾が無いか、ゼロベースで検討することの重要性を

  身に染みて感じた。症状・症候の重篤感と、検査異常値などの全身状態の評価に

  解離があったら、必ず後者を重視すべきと改めて感じた。症候学はあくまで診断の

  筋道を立てるツールでしかないことを銘記すべき。。

 

・検査結果解釈 

 プロブレムリストをひとつひとつの検査異常値に基づいて丁寧に挙げるべきだった。

 →忙しい臨床現場では個々の多少の異常値は軽視してしまいがちだが、複数を紐づけ

 て改めて見ると重篤な状態だった。。。

 

 

 このように、病歴の整合性を早く確かめ、少しでも疑ったらオーバートリアージ

行い、検査異常を個々に正確に拾い上げて(余裕があれば複数の異常から診断仮説を

正確に立てて)、上級医にコンサルテーションができていれば、患者さんの転帰

少しは変わったのではないか、と悔やまれる症例でした。猛省して次診させてもらう

症例から、意識したいとおもいます。

 

苦い経験となりましたが、少しでも皆さんのお役に立てれば幸いです。

今日は以上です!

 

腎盂腎炎の診断と尿Gram染色

レベル:☆~☆☆

 

  • 腎盂腎炎と尿Gram染色について考える
  • 高齢者の発熱検索で最終的に腎盂腎炎』と診断するのは時として非常に難しいです。他の感染フォーカスが無いことを確認したうえで診断するため、基本的に腎盂腎炎は除外診断である!医学生は覚えておいてくださいね☆

 

  • 他に感染フォーカスが無いことを①病歴、②身体所見、③検体検査(喀痰、血液の検体も治療前に必ず取っておきましょう)、④画像所見 などから確認したうえで、①排尿時痛頻尿など自覚症状②尿定性・沈査③尿Gram染色像などで総合的に『腎盂腎炎らしい』と診断します。
  • 腎盂腎炎らしい』、と表現したのも必ず例外があるからです。

 

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  • これは尿のグラム染色像です。グラム陰性桿菌で、太いボテッとした桿菌がまるで列車のように連鎖を形成しています。
  • 太くボテッとした陰性桿菌をみたら、①Proteus spp. ②E.coli、③Klebsiella spp.などいわゆる`PEK`を原因菌として考えます。列車のように連鎖を形成することは発育が非常に速い状態を意味しますが、無症候性細菌尿でもこのような像を呈するので、これだけで腎盂腎炎とはいえません。グラム染色で菌体がみえなくても腎盂腎炎は否定できませんし、逆に高齢者の20%は無症候性細菌尿があるといわれており、菌体と白血球がいても腎盂腎炎とはいえない、というなんとも言えないところです。。。

 

  • 診断に際しては、直腸診を忘れていて腎盂腎炎と思ったら実は前立腺炎だった尿と血液培養を取らずに腎盂腎炎に対してセフトリアキソンで治療していたら4日たっても解熱せず、実は感染性心内膜炎(IE)によるMRSAの血流感染症だった、なども臨床で経験されるそうですので、既往歴に腎盂腎炎、と書いてあっても、『それってほんとうに腎盂腎炎??』と疑う姿勢は必要そうですね。

 

  • 最後に、尿所見のTipsを紹介して今回は終了です、お疲れ様でした!
  • 尿定性では尿pH(正常:4.6 - 8.0)にも注目せよ。pH上昇(≧8.0)をみたらProteus spp.、②Klebsiella pneumonia (Oxytoca)、③Morganella morganiiを考えよう。これらはウレアーゼ活性が高く、尿素アンモニア + CO2へ分解するためpHが高くなります。

 

☆まとめ☆

腎盂腎炎は除外診断!

腎盂腎炎と診断しそうになっても、前立腺炎IEからの血流感染はないか、考えるクセを。

はじめに

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読者の皆様、はじめまして  りょうま  です。

『はじめに』を読んでくださってありがとうございます。

 

このブログでは、医学ネタ・お酒のレビュー(ワインが多いかな...)・読書(医学以外の書籍も時間をとって読みたいものです...)をメインに気ままにシェアさせていただきます

 

(1)医学ネタ

 ・文献紹介 も積極的に行っていきたいと思います!

 ・医学生へ。☆の数で内容のレベルを示しているので参考にされてください。

   ☆: 医師国家試験ぐらい

   ☆☆: 内科研修医ぐらい

   ☆☆☆: 専門医ぐらい、マニアック

 

(2)お酒

 ・最近はもっぱらワインです。イタリアは フリウリ/ヴェネツィア/ジュリア。土着品種のワインをその土地を勉強しながら楽しむのにハマりました。

 ・日本酒も一時期酒蔵さんへ通っていたのでそれなりに知っています。

 

(3)読書

 ・  ・・・がんばります!

 

 

以上、こんな感じでよろしくお願いします!

 

写真は、チーズケーキとコーヒーのマリアージュで有名な 神戸 カフェ ケシパールさん^ ^