診断エラー(Delayed Diagnosis)について考える
レベル:☆~☆☆
(1)診断エラーとは
米国医学アカデミー(National Academy of Medicine; NAM)は2015年に、
Improving Diagnosis in Healthcareというレポートにおいて、医療安全というテーマ
に占める診断エラーの割合が大きいことから、その予防の重要性を発表し、そこから
診断エラー学が様々な学会、機関紙で取り上げられるようになったとの経緯があり
ます。
日本では、徳田安春先生、綿貫 聡先生、和足 孝之先生らが当初より診断エラー学の
普及を進めてこられました。
診断エラーの定義は、『患者の健康問題について正確で適時な解釈がなされない
こと、もしくはその説明が患者に為されないこと』とあります。つまり、医療者側の
問題として、正しい診断・介入はその時点では本当に「正確」で「適時」であるかは
後から振り返ってみないと評価できないこと、医療者-患者双方の問題として、正しい
介入が適切に患者さんへ伝えられること、の2つの大きなハードルがあることが
わかります。
前置きが長くなりましたが、診断エラーのポイントは以下の3つに集約されます。
① 診断の見逃し(Missed Diagnosis)
② 診断の間違い(Wrong Diagnosis)
③ 診断の遅れ(Delayed Diagnosis)
クリアカットにどれかが当てはまるということはなく、複数のエラーが見られることが
大半です。
(2)診断エラーの場面に際しておもうこと
個人情報保護の観点から詳述は避けますが、先日診断エラーの場面に自らが直面
しました。指導医からフィードバックを各々得ましたが、自分のアクションの改善
を積み上げていれば、組織として防ぎえたエラーであったと思います。以下、どの
ように自分がふるまうべきであったか、を診断プロセス別に紹介します。
・情報収集
患者本人だけでなく、家族からの病歴聴取を早く先行させて、患者本人と同様に重視
するべきだった。
→ 本人に認知症なく、重篤感もなかったことから本人のSource & Reliabilityを重視
しすぎてしまった。あとから家族に訊いたら、実は発熱・悪寒戦慄も病歴に
あった。。。
患者さんの「いつものアレ」に引っ張られずに診断仮説を立てるべきだった。
→同じ病気を繰り返している病気の「プロ」がいう「いつもと同じ痛み」であっても
他の所見と照らし合わせて矛盾が無いか、ゼロベースで検討することの重要性を
身に染みて感じた。症状・症候の重篤感と、検査異常値などの全身状態の評価に
解離があったら、必ず後者を重視すべきと改めて感じた。症候学はあくまで診断の
筋道を立てるツールでしかないことを銘記すべき。。
・検査結果解釈
プロブレムリストをひとつひとつの検査異常値に基づいて丁寧に挙げるべきだった。
→忙しい臨床現場では個々の多少の異常値は軽視してしまいがちだが、複数を紐づけ
て改めて見ると重篤な状態だった。。。
このように、病歴の整合性を早く確かめ、少しでも疑ったらオーバートリアージを
行い、検査異常を個々に正確に拾い上げて(余裕があれば複数の異常から診断仮説を
正確に立てて)、上級医にコンサルテーションができていれば、患者さんの転帰も
少しは変わったのではないか、と悔やまれる症例でした。猛省して次診させてもらう
症例から、意識したいとおもいます。
苦い経験となりましたが、少しでも皆さんのお役に立てれば幸いです。
今日は以上です!